シナップソーシャルグッド 8年間の軌跡

2019.03.07

socialgood2019w_top.jpg こんにちは。シナップの沓掛です。

今回は関係者の方々にお送りしている冊子『SINAPJournal 2019 Winter』より、シナップで行っている被災地の復興支援の活動内容をご紹介させていただきます。 東日本大震災からもうすぐ8年――。これまでのシナップの活動を振り返るとともに、岩手県陸前高田市を訪れ、この地域のいまをレポートします。

SINAP Social Goodについてはこちらからご覧いただけます。
【SINAP Social Good 復興支援プロジェクトとは】

シナップソーシャルグッドの軌跡と東北のいま――

2011年3月11日、東北地方を中心に、私たちを未曾有の大地震が襲いました――。
「シナップとして被災地になにかできないだろうか」と、誰ともなく上がった声にみんなが反応し、シナップの復興支援活動が始まりました。
どのような支援を行うか、長い時間をかけてスタッフ全員で話し合いました。そして私たちが決めたのは一過性の支援ではなく、顔の見える関係で長く続けること。数年にも及ぶといわれる被災地の生活や経済の復興に自分ごととして関わり、長期的な視点で活動していこうというものでした。

酔仙酒造との出会い

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様々な可能性を模索するなか、スタッフの親戚の方とつながりのあった岩手県陸前高田市にある老舗酒造メーカー酔仙酒造と連絡を取ることができました。
酔仙は震災に際して工場、倉庫、150本ものタンクを含む全ての建物が津波によって流され、7名の方が亡くなられるという大変な被害をうけていました。
震災からおよそ3ヶ月後の6月、実際に現地を訪れた私たちが見た光景も言葉を失うものでした。

酔仙の当時社長である金野靖彦さんと初めてお会いしたのは、酔仙が復興へ向けてまさに動き始めている時でした。靖彦さんの「このままでは終われない」という言葉に、被災地の光景にショックを受けていた私たちが逆に励まされたことをいまでも覚えています。

こうしてシナップでは隔週でスタッフが現地を訪れ、実際に酔仙のみなさまと顔を合わせてお話ししながら、私たちの本業であるWeb・ITを活用したコミュニケーション作りの支援を開始しました。

新サイトの公開と初出荷

socialgood2019w_02.jpg 2011年7月、酔仙は同業である岩手銘醸株式会社の協力で、一関にある玉の春・千厩営業所の製造設備を借り、新酒づくりを始める準備に入っていました。工場を失ってから半年を経たずに再びお酒造りが開始できることに誰もが驚き、期待をもって見守っていました。しかし、全てが順調というわけではありませんでした。
実際、お借りしたこの設備は「寒造り」と呼ばれる気温の低い冬場に仕込むための設備であったため、空調設備がありませんでした。そのため製氷機で造った大量の氷を金属製の筒に入れ、直接樽の中にいれることで温度を冷やすなど、裏では大変な努力と試行錯誤が連日繰り返されていたのです。
そこにはまさに「このままでは終われない」と困難に立ち向かう職人たちの姿がありました。

socialgood2019w_03.jpg 9月、震災から半年が経とうとするところ、シナップがお手伝いして制作した酔仙の新しいWebサイトが公開されました。これまで何度も打ち合わせをさせていただきながら公開できたサイトは私たちにとっても感慨深いものとなりました。そしてようやく、酔仙はサイトを通して多くの人に情報発信ができるようになったのです。
公開後、Twitter上ではたくさんの酔仙酒造のファンの方から暖かい応援メッセージが届けられました。
そして10月、酔仙から新酒「雪っこ」が出荷されました。震災から7ヶ月、文字通り全てを失った酔仙にとって、この出荷は復興への大きな一歩でした。

新工場の設立。そして震災後初の大吟醸の販売

socialgood2019w_04.jpg (左上)新工場として設立された大船渡蔵。(右上)一本松とRise Up、KESENのメッセージを背に新たな大船渡蔵で行われた仕込み。(左下)震災後初めて行われた雪っこ出荷式(右下)特別なお酒である大吟醸酒に1際の想いを込めて発売された「酔仙×松徳硝子 復興応援感謝セット」

その後も酔仙はひたむきに努力を重ね、復興の道を歩みました。2013年8月には大船渡に新たな工場を設立、新工場での仕込みを開始しました。国の復興事業補助金が決まり、異例の早さでの新工場建設でした。
シナップではWebサイトやSNSの運用はもちろん、2013年には復興後初の大吟醸酒の発売に合わせ、極薄のガラス製グラス「うすはり」で人気の松徳硝子とのコラボレーション「酔仙×松徳硝子 復興応援感謝セット」の商品企画にも携わりました。数量限定のこの商品は様々なメディアにもとりあげられ、大変な注目を集めました。

常に感謝の心を忘れず、前進を続ける酔仙酒造

こうして酔仙は復興の道をひたむきに歩み続けます。シナップではWebサイト制作などを無償でお手伝いすることが地元の同業企業の売り上げを奪うことにならないよう、徐々に運用面を地元の制作会社に引き継ぎ、現在はコミュニケーションプランニングの面で微力ではありますが、引き続きお手伝いを行なっています。
傍らで応援していてわかるのは、この道程が決して簡単なものではなかったということです。そして、いまもなお様々な課題に挑戦し続けています。
そんな努力が結実し、17年、18年と全国新酒鑑評会において、2年連続で純米大吟醸酒が金賞受賞となりました。また、17年10月には日本ゼトックと共同開発した「雪っこ」を贅沢に使用した美容液「雪っこオールインワンジェル」を発売。こちらも非常に人気の高い商品になっています。
「常に感謝の心を忘れてはいけないなと思っています。多くの支援があってここまでやってこれました」と語るのは醸造課主任 金野泰明さん。

時に地元の復興の象徴として華々しく取り上げられることもある酔仙ですが、毎年毎年少しでも美味しいお酒をつくり、品質を高めるため、いまもひたむきな努力を続けています。

シナップと未来商店街

socialgood2019w_06.jpg 「これから立ち上がる商店街の支援をしてほしい」という一本の連絡をきっかけに、2011年12月、陸前高田未来商店街の支援が始まりました。

未来商店街は、震災で店舗を失った商店主が再スタートを誓って集まった商店街です。当時は建物の代わりにコンテナを利用し、地元に戻った若者、ボランティアスタッフの協力を得ながら営業開始を目指していました。一方、その存在、活動をどのように知ってもらうかは未来商店街にとって大きな課題となっていました。

シナップではより多くの方に未来商店街を知ってもらえるよう、Webサイトの制作、SNSの活用などで支援を行いました。そして、2012年5月「商店街の運営者が自ら情報を発信できる場」として、未来商店街のWebサイトは公開されました。

クリスマスイルミネーション

socialgood2019w_05.jpg 2012年12月、シナップでは私たちが毎年行なっていた「SINAP ChristmasProject」の一環として、商店街にクリスマスイルミネーションを設置しました。「暗い被災地の夜に、暖かい明かりを灯したい。」そんな思いが商店街の皆さんに届き、とても暖かい感謝の言葉をいただいたことをいまも覚えています。

未来商店街はその翌年には2階建てのプレハブ店舗を建築、出展店舗数も増え、週末には朝市が行われるなど、地元の魅力あるスポットとなりました。そして2018年9月30日、仮設商店街の期限を迎え解散。多くの店舗は隣接するアバッセたかたを中心とした新商業エリアに移転し、新店舗となって再出発を果たしています。
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陸前高田のいま

socialgood2019w_10.jpg 震災からおよそ8年、何度も訪れた陸前高田、大船渡、気仙沼は来るたびに景色が変わっていきました。瓦礫の山が均され、道が整い、住宅が建ち、お店が開店してきました。
陸前高田では、2017年4月、前述の大型複合商業施設アバッセたかたが開業、その周辺には未来商店街に入居していた店舗をはじめ、多くの店舗が集い、地域の復興が進んでいることを感じることができます。

一方、こうした開発地区の周辺を見渡せば、いまだ多くの工事車両が行き交い、いまなお延々と工事が続けられ、かさ上げされた広大な更地が目に飛び込んできます。8年という歳月を費やしても、人々の行き交う以前のような景色には戻らないのです。

socialgood2019w_08.jpg 地元の人の話では、かさ上げ地のうち6割以上がいまだ利用予定がない状態、人口の流出も多く、今後の大きな課題となっているそうです。
また、復興庁が2021年3月で期限を迎えます。「様々な支援が及ばなくなれば、たとえいま街の建物が新しくなっても、経済的に持続可能にはならないでしょう。震災から8年、ようやくマイナスからゼロに向かってきたところ。支援が打ち切られるこの先が本当の正念場かもしれません。」お話をうかがったみなさんが、これからの覚悟を口にされていたのが印象的でした。

取材を終えて

socialgood2019w_09.jpg メディアでの報道が少なくなった東日本大震災。
被災地は一歩一歩復興に向けた歩みを確かに続けています。一見すると、新しい施設が建ち並び、街はだいぶ機能を取り戻したかのように見えます。
しかし、震災の記憶が徐々に風化し、風景として私たちに見えにくくなっていく中で、いまなお再生、そして自立へ向けて多くの課題と向き合っているというのが、いまの被災地の本当の姿だと感じました。

8年間――。 顔の見える関係だから長く続けられたこと、長く続けたからこそ見えてきたこうした課題。私たちにできることは限られていますが、シナップではこれからも応援を続けていきたいと思います。

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