ウェブサイト設置型 EPUB リーダ「BiB/i(ビビ)」の目指すもの
おはようございます・こんにちは・こんばんは。
フロントエンドと電子出版担当の松島です。ここではたいへんおひさしぶりです。
先日、「BiB/i(ビビ)」という少し変わった EPUB リーダを無償公開しました。先週末にはバージョンアップも公開しています。(ちなみに SINAP のではなくぼく個人のプロジェクトです)
「ウェブサイト設置型 EPUB リーダ」と説明したりするのですが、特徴は次のようなものです。
- ウェブページやブログ記事に YouTube 動画を貼り付ける感覚で EPUB を公開すればその場で読んでもらえる
- 100% JavaScript で書かれていて、ブラウザだけで動作する
- EPUB 3 に積極対応
- ウェブらしく?、すべてのブラウザで同じ表示を目指すのではなく、各ブラウザの実装度に応じてそれぞれの最善で表示する。
- スクロール操作を基本にしつつ、ページめくり風味のインタフェイスも用意
- 豊富なカスタマイズ機能(未公開の設定もいっぱい)
- MIT ライセンスのオープンソースソフトウェア(GitHub にも公開中)
詳しくは上にリンクしたサイトをご覧ください(デモもあります)。
幸いあたたかく迎えていただけて、いちはやくプレビューに採用してくださった作家さんたちがいたり、連携ツールを公開してくださった開発者さんたちがいたり、ほんとうに嬉しい限りです。
でも、まだまだ満足していません。もっとたくさんのみなさんに、さらに楽しく使ってもらえるものにしたいと考えています。今日は、そのあたりの動機を、つまりぼくがなぜビビを開発しようと考えたか・ビビを公開することでなんの役にたちたいと思っているのか、そのあたりをおはなしさせていただきたいと思います。
いろんなことができる EPUB をもっと手軽な存在にしたい
ぼくはつねづね、EPUB がもっといろんなことに活用される世の中になればいいのにと願っています。たとえばバンドのデモテープだとか、ほんの数ページのミニコミ誌だとか、ゲームだとか。パンフレットや、取扱説明書や、教科書や、いろいろ、いろいろ。
EPUB といえば電子書籍、電子書籍といえば小説や漫画、という話になることが多く、もちろん小説や漫画のような作品は EPUB が扱う主要なコンテンツです。が、EPUB にはほかにもいろんなことができます。いろんなものをパッケージにして誰かに渡すことのできる便利なフォーマットなんですよね。でもいまはまだ、作るのも渡すのもなかなかめんどくさい。いろいろできる可能性をもっていながら、実質的には使われにくい状況です。
だから EPUB を、「作れば見てもらえる、使う甲斐のあるフォーマット」にして、もっと普及させたいと思ったのです。どこそこの電子書籍ストアで採用されているフォーマット、というレベルではなく、もっともっと、誰でも作れて誰でも公開できて、誰でもそのメリットを享受できる、あたりまえのものにしたいわけです。
それには、わかりやすい制作ツールと、公開したり管理したりするための便利な方法や場所と、とっつきやすいリーディングシステムが不可欠です。作って、公開する。見つけて、アクセスして、読む。ざまざまな人たちの努力で、どのポイントにも徐々に便利な解決策が出てきています。ビビもそのひとつとして役に立ててもらいたいと考えています。
ウェブサイトに貼り付けたら見てもらえる。EPUB でつくったらウェブサイトに貼り付けられる。ビビを使えばね。......まずはそういうふうにしたいのです。
公開方法にはまだめんどくささが残っているビビなので、その改善策はもちろん考えていますが、まずは、公開されているものを読むための敷居を下げることから始めたいと考えました。
届ける/受け取るための選択肢を増やしたい
ビビをつかう最大のメリットは、「EPUB が公開されているウェブサイトで、そのまま EPUB を読めること」だと思っています。EPUB をダウンロードして、インストールしておいた別のアプリで開き直す、という手間は必須ではなくなります。設置するほうも、外部サービスとの連携などは必要なくて、ダウンロードしたファイル群を EPUB と一緒にウェブサイトにアップロードすれば準備が済むようにしてあります。
ご自身のウェブサイトやブログで作品を紹介するとき、ダウンロードリンクを提供するだけでなく、そこにそのまま貼り付けてしまえれば、一拍置く程度で、まずは見てもらうことができますよね。
たとえば小説を全文公開したり、試し読みを用意したり、歌詞のページで楽曲が再生できるブックレットのようなデモアルバムを公開したり。そういうことを、やりたいと思ったときにそうできる、そのための方法を提供したいというわけです。
個人出版・ダイレクトパブリッシングが注目されていますが、そこで活動する作家さんたちの思いの強さ・作品の質の高さに触れるにつけ、これを局所的・一過性の流行にしてはもったいないし、作家さんたち自身と作品の力でそうはならないとしてももっと加速させたいと思います。たとえば EPUB をつかわず Kindle Store で販売するのだとしても、選択肢を増やしたいのです。
ダウンロードして専用のリーダで開き直してもらえればもちろんそれでなにも問題ないし、そもそもウェブページにそのまま公開するのもひとつの優れた方法だと思います。ただ、「まずとにかく見てもらいたい。そしてできれば、作品をプレゼントのようにラッピングして、あるいは自分が最善だと思う姿を与えて、パッケージで届けたい」......というような気持ちを、そりゃあそうだよね、と考えて、そうできるようにしたいと思ったのでした。
届けたいものをちゃんと受け取ってもらえるようにしたい
自分の作ったものを誰かに届けたい、という欲求が、ぼくはとても好きです。一生懸命さが誰かに届くのは、うれしいものなんです。これは、「花をもらっておこる人間は、あんましいない※」のとおなじくらいには確かなことなんじゃないでしょうか。デザインはそういう「届けたい」「受け取りたい」を助けるためにあると思って、この仕事を続けてきました。
つくりたいという欲求は一人でも達成できますが、届けたいという欲求には、まず受け取ってくれる相手が必要で、そして、経路や方法が必要です。その経路や方法を、デザイナは照らすことができると信じています。
ビビがそんなふうに、いろんな人の願いを照らせる存在になるよう願い、願うだけでなくこれからも努力して、もっといいものにしていきます。
さて、ぼくの考える「もっといいもの」というのの真ん中ちかくに、アクセシビリティがあります。「電子書籍の現状にはファインダビリティ/ディスカバラビリティが欠けている」とも言われていますが、これらもアクセシビリティの範疇です。
また、さきほど EPUB が活用されれば良いと考えるモノのひとつに教科書を挙げましたが、いまの EPUB に至る重要な系譜に DAISY があるというのも、やさしくアクセシブルな文書に寄せられる、希望といってしまっては甘いくらいの、もっと切実な願いに応えるためです。
ビビはアクセシビリティに注力して、受け取りたい人に届く電子書籍を応援したいと考えて居ます。その過程ではインターネットと電子出版のしあわせな連携についてもさらに深く考えていくことになるはずで、たぶんぼく個人の成すべき仕事もそっちにあるはずなんじゃないかと思っています。
届けたいと願うこと、読みたいと願うこと。さまざまな面からそれを叶えようという気運は、ちゃんと萎まず高まっています。ぼくの周辺でも、願いを叶えたいという願いを込めてプロダクトを世に送り出す人・組織が増えてきました。みんなで素敵なあたらしい読書を探していきたいと思っています。ビビを皆さんに愛される子に育てていきますよ。