社内勉強会レポート「Webアクセシビリティ勉強会:アクセシビリティと これからのWebデザイン 我々はどこに向かうのか」講師:BA 伊原力也氏
こんにちは、富川です。GWも明けて爽やかな気持ちのよい季節になりましたね。
さて、シナップでは先日、以前から交流のあるインフォメーション・アーキテクトの伊原力也さんに講師に来ていただき、webアクセシビリティについての社内勉強会を開催しました。今回はその様子をご紹介いたします。
開催の経緯と、参考図書のご紹介
今回講師をしてくださったのは、BAでシニア・インフォメーションアーキテクトとしてご活躍されている伊原力也さんです。シナップは以前から伊原さんにとてもお世話になっていましたが、先日参加した別の勉強会でお話しをする機会があり、シナップでもぜひWebアクセシビリティの勉強会を開催しましょうとお声がけをいただきました。
著者: 太田良典・伊原力也
『コーディングWebアクセシビリティ』著者: ヘイドン・ピカリング(太田良典・伊原力也 監訳)
事前にスタッフに配られた参考書籍は、BAの伊原さんと太田さんが執筆/監訳された左の2冊です。以前、シナップの推薦図書10選でもご紹介しています。
今回の勉強会では次の内容で進めていただきました。
- 前編:アクセシビリティとは
- 後編:Webアクセシビリティ概論
- 質疑応答タイム
スライド資料のご紹介
今回の勉強会用に伊原さんが素晴らしい資料を作って来ていただき、また特別にslideshareでも共有してくださったので、ぜひご覧ください!
前編:アクセシビリティとは
「そもそもアクセシビリティとは何か?」という質問から始まります。なんとなく"ユーザビリティ"と似ている言葉だと思っていましたが、特定ケースでの「使える度」を追求する"ユーザビリティ"と異なり、"アクセシビリティ"はその「使える度」を束ね、様々なケースで幅広い層の人々が利用できることを求められます。
一般的な青年層だと普段アクセシビリティの必要性を感じる場面は少ないかもしれませんが、例えば子供連れで行動する時や怪我を負った時、もっと身近な例で言えばネット回線が遅い時などでも、必要な情報へきちんと到達することのできる「アクセシブルに作られたもの」がとても有用になってきます。
情報アクセシビリティは6つの重層構造になっていて、Webはそのプラットフォームに情報があるだけで基本的に3つ目のレイヤーまで保証されている、非常にアクセシブルな存在だそうです。(スライド参照55ページ)
ひと口に「アクセシビリティに対応しよう!」と言っても何からどう考えて手をつけたらよいのか迷ってしまいますが、残り3つの「使用・共有・改変」に対応できるように、正しくコンテンツを作っていけば大丈夫だということがわかり、自分でも取り組めそうだと道筋が見えたように感じました。
後編:Webアクセシビリティ概論
「Webアクセシビリティ」について
Webアクセシビリティの根幹は、機械で読み上げ可能なマークアップされたテキストで表現されていること。W3Cが勧告している標準規格について、レベルA(どんなサイトも満たすべき最低限の基準)〜AAA(発展的な基準)まで、内容と合わせて教えていただきました。
満たすべき基準には、文章の明確さやデザインの基本的なルール、以前ブログでご紹介したEFOをはじめ幅広い内容を含んでいるので、それらを理解して制作できるようになれば、職域問わず活躍できるWeb制作者になれると感じました。当たり前のことをきちんとできることが、本当に大切なのですね。
「Webアクセシビリティに取り組む理由」について
なぜ取り組む必要性があるのか、その理由について最近の状況と合わせて詳しく教えていただきました。
伊原さんの主観としては、Webアクセシビリティは「じわじわきてる」そうです。
海外では法制化が進んでおり、日本でも2016年4月に「障害者差別解消法」が施行されたことは大きなポイントとなるそうです。日本の企業Webサイトでも、自社のWebアクセシビリティ方針についての掲載が増加しているそうです。
大企業、公的機関、グローバル企業の案件では、前提条件としてとりあえず含まれていることがほとんどなので、Web制作に関わる企業は、自社の強みのひとつとしてWebアクセシビリティにきちんと対応できるようになっておくのは価値あることだと感じました。
質疑応答タイム
最後は質疑応答タイム。「アクセシビリティは見積もり時にどのように予算取りするのでしょうか?」「アクセシブルな実装を行ったことで、会社的にでも制作者としてでも個人的にでも、うれしかった経験を教えてください。」など、リアルな質問が沢山出ましたが、伊原さんはどの質問にも丁寧かつ鮮やかに回答してくださいました。話は尽きることなくそのまま懇親会へと続いていきました!
シナップメンバーの感想もどうぞ
今回の勉強会へ参加したメンバーたちの感想をもらったので、その一部をご紹介します。
- とかく漠然としたイメージで捉えがちな「アクセシビリティ」に関して、作り手である私たちが自分ごととして捉えることができるようになるまで、難しく感じることなく丁寧に紐解いていただきました。教科書的になることなく、基本的な概念から、実務上の非常に踏み込んだお話までお聞きできたので、とても勉強になりました。
- 課題本を読んでアクセシビリティとは普段から気をつけていること、当たり前のことが多いのだなと改めて思いました。 私のイメージしていたアクセシビリティは、難しいもので特別なものとハードルをあげていたような気がします。伊原さんのお話をきいて更に身近になりました。学んだことを活かせるように頑張ります!
- 本来なら自分が社内を盛り上げなくてはいけなかったんだと思います。日々にかまけて流してしまっていたところに最高の先生をお迎えできて、クライアントのメリットにもなることなんだ! あたりまえにやればいいんだ! ......と、みんなもぼくも安心できました。ありがとうございます。
- アクセシビリティと聞くと何か特別なものというイメージがあって構えてしまうことが多かったのですが、ウェブに限らず身近なアクセシビリティまで広げたお話をしてくださってとても親近感がわきました。実務に活かせるリアルなお話もたくさん伺えたので、ぜひ実践していきたいなと思いました。
- アクセシビリティ対応の、制作会社側が無償で対応すべき範囲と、クライアントに請求して対応すべき範囲に関しての疑問が解決できたのが良かったです。また、一般的なアクセシビリティの話からご説明頂いたので、Webアクセシビリティに関しても理解が早くとても満足度の高い内容でした。ありがとうございました。
- 本に書かれていたことをベースにもっと具体的なお話が聞けたので、より理解できました。また、アクセシビリティとセキュリティの兼ね合いがどうなのか自分の中でまとまらず考えがふんわりしていたのですが、詳しく答えてくださり分かりやすかったです。ありがとうございました!
- Webアクセシビリティを考える時に、先に修飾無しのアクセシビリティを説明してもらうことで、本質をよりよく理解できたように思います。また、アクセシビリティ対応が自己満足ではなくお金の生まれる物であるとの認識が広まっていると聞いて嬉しく思いました。
- 受託会社において成果物のアクセシビリティの担保は企業努力が当たり前という認識が強かったため、RFPに記載があれば、見積もりに入れる事は至極納得のいくところでした。翻ってクライアント側にその認識がない場合は、暗に見積もりに入れることは、まだ難しそうです。
制作側からクライアントへアクセシビリティ対応は、必須である旨、併せてベーシックな成果物のクオリティとは別の対応となることを啓蒙し続けることが重要と感じました。
制作フロー上については、マークアップ後のチェックでは遅い印象があり、工程が移行する手前の段階でのレビューが重要そうです。チェックリスト化するのも手ではあるけれど、制作可能かのレビューに留まることも多いため、会社の成果物としてアクセシビリティが担保できているかもマークアップ前の設計/デザイン時点でチェックできる仕組みがあると望ましそうですね。それらチーム全体の認識合わせの啓蒙が、アクセシビリティをあげる第一歩なのかもしれないですね。
おわりに
今回の勉強会では、Web制作に携わる身としてWebアクセシビリティについてどのように取り組み、価値を提供していけばよいのか、実践的に考えることができました。
デザイン面だけでなく多方向からアクセシビリティを意識したモノづくりができるように意識していきたいと思います。
伊原さん、今回はありがとうございました!