EPUB3.0が可能にする電子書籍でのユーザ体験(2)

2011.04.28

こんにちは、内藤です。
前回の記事では、EPUB3.0では日本語への最適化が進むとお話させていただきました。
ただ、"日本語への最適化"と一言で言ってもなかなかイメージしづらいかもしれません。そこで今回は、3月22日に行われた「EPUB日本語拡張仕様策定」の成果報告会にて解説された様々な分野でEPUB3.0がどのように利用されていくのかついてレビューしていこうかと思います。

EPUBコミック(漫画)

現在デジタルコミックの配布フォーマットとしては、ZIPコミック、AZW(アマゾン)、XMDF(シャープ)、EPUB2、PFDなど様々なものがありますが、基本的にすべて縦書きに対応していないため日本の漫画の表現には不十分となっています。しかしながら、5月に完成予定のEPUB3.0では以下のようなことが可能になると言われています。

・右開き、見開き、縦組み、縦中横、縦ルビなど。
・ローカルフォントに依存しない形で、多彩なフォントが使用可能。(フォントの埋め込みが可能)
・吹き出しをクリックすると、セリフを読み上げたりBGMや効果音を再生する。(EPUB Media Overlayer)
・目次をクリックするとその章にジャンプできる。
・任意のセリフを検索、出現ページにジャンプできる。

現在の漫画表現の幅が少し広がり利便性が増したといったかんじでしょうか。
ただ、実は上述したものは現在のPDFである程度実装可能なものとなっています。では、EPUBの特筆すべきところはどこなのでしょうか。

それは、プログラマブルな機能拡張にあるようです。
EPUBは動的なファイル形式となっているので、様々な環境によって見せ方を切り替えることができます。例えば、スタイルシートを書き換えるだけで言語を変えたり(図1)、端末によって表示を切り替えることが可能です(図2)。


epub_comic_01.png


epub_comic_02.png

システムで制御するので決まった形式にコンテンツを当てはめるのではなく、コンテンツに適した表現方法を実装していくことが可能になるのです。これによって新しい漫画表現が生まれてくるかもしれませんね。

参照URL(pdf):
http://www.epubcafe.jp/egls/solution/EPUB_comic.pdf?attredirects=0&d=1


EPUBマガジン(雑誌)

日本の雑誌の多くは漫画と同じように右開きで縦組みのレイアウトで構成されています。そのため、EPUB3.0を利用することによって、ユーザはデジタル雑誌として新しい表現、文法を受け入れていくのではなく、既存の慣れ親しんだものでデジタル雑誌を楽しむことが可能になります。また、先ほどEPUBコミックのところで紹介した、検索機能や音楽を埋め込むことでよりリッチなユーザ体験を提供することができるでしょう。
雑誌はそのレイアウトによって雑誌特有の情報提供や楽しみ方を持っているメディアですが、それもEPUBのリフロー機能によって端末が違ってもその端末に適した表現に変換してくれるので、ある程度表現の幅に限界はでてきてしまうものの、レイアウトの崩れや端末によって読みにくくなってしまうということも防ぐことができます。
しかしながら、そのリフロー機能でどのように広告を表現できるのかというのが現時点で明確になっておらず、デジタル雑誌の今後の課題となっているようです。多くの雑誌の主な収入源は広告となっているため、広告を表現していくのかが定まらないことには広告主との調整が難しいのでしょう。ただ、デジタル雑誌はインターネットとの連携を可能にしているため、雑誌で得た情報からすぐに検索や該当詳細情報へ移ることができるので広告主にとってはとても参入したいメディアのひとつなのではないでしょうか。表現の基準さえ設定することができればとても将来性の高いものだと感じます。

参照URL(pdf):
http://www.epubcafe.jp/egls/solution/epub_magazine.pdf?attredirects=0&d=1


EPUBニュース(新聞)

新聞の購読数はすでに右肩下がりの減少傾向にあることはみなさんすでにご存知のことかと思います。それはインターネットのニュースサイトでよりリアルタイムに近い情報を無料で手に入れることが可能になってきたことが一因とされています。また、ニュースサイトで提供される情報の多くは横組みとなっており、その表現にすでに慣れ親しんでしまったユーザにとって今回のEPUB3.0が可能にする縦組みの表現等がデジタル新聞に与える影響はあまり大きくないように感じてしまうかもしれません。
今回の報告会でも新聞におけるhtml vs EPUB が取り上げられていました。これによると、確かに新聞の情報提供においてはhtmlのリアルタイム更新のほうが相性がいいのですが、新聞を朝刊夕刊のパッケージとして捉えたときにはEPUBの方が「商品」として販売しやすいとされていました。紙の新聞が提供している、時間よりも質を重視した"読み物"としての価値をデジタル新聞ももっているのでしょう。htmlで提供される情報へのニーズとプロダクトへのニーズの違いにうまく適応していくことがデジタル新聞の将来を決める気がします。
また、デジタル新聞はEPUB3.0のプログラマブルな実装によって表現の仕方に幅をもたせたり、パッケージを更新することができるため、紙の新聞とはまた違ったプロダクトの価値をユーザへ届けることができます。ニュースサイトの出現によって落ち込んでしまった購買数を巻き返すチャンスがここにはあるのではないでしょうか。

参照URL(pdf):
http://www.epubcafe.jp/egls/solution/epub_news.pdf?attredirects=0&d=1


今回は漫画、雑誌、新聞と主要な紙メディアについての報告をレビューさせていただきました。epubcafeでは他にも、実用書(事典等)、ビジネス文書などの指針が紹介されています。こちらもぜひご覧ください。
EPUB3.0の仕様制定まであと1ヶ月を切りました。この制定によって日本の電子書籍がどのように発展していくのかとても楽しみです。これからも注目していきたいと思います。

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