デザインとセンスの関係を聞く
こんにちは、守谷です。
少し前になりますが、ウジトモコさんの登壇されたマンスリー版の「CSS Nite in Ginza, Vol.61」に参加してきましたのでレポートします。
今回のテーマは「<ワンランク上の>デザインセンスを身につける」。
ウジさんの同名の著書(「デザインセンスを身につける」)から一歩踏み込んだ内容で、「CSS」Nite とは言いつつ今回はどちらかというとマーケティングにも寄ったものでした。対象者はデザイナーだけでなく企業のWeb担当者までに及んだという印象でした。実際内容もウジさんがブランディングを手がけた日本酒やコンサルティング会社のCI(Corporate Identity)をはじめとするデザインからTwitterなどSNSのアイコン選択方法まで、幅広かったです。ちなみに、書籍の方のターゲットとしては「知って得する、ふつうの人のためのデザインの話。」とされています。
そもそも、ウジトモコさん、皆さんはご存知でしょうか。「視覚マーケティング」を提唱されている方で、デザインも経営戦略になりうるということをずっと提唱されています。私は以前「売れるデザインのしくみ - トーン・アンド・マナーで魅せるブランドデザイン -」を拝読し、大きな気付きを得たひとりです。なぜこういうデザインになったのか、という「デザイン」に必要な「理由」や「根拠」(なんとなく見栄えが良いから、というのはデザインとは言いません)を作る・考察する上で大事なキモが書かれている本です。とてもいい本です。
さて、そのウジトモコさんにはなかなか直にお話を伺う機会の無いまま今まできてしまったのですが、新刊「デザインセンスを身につける」の内容をひっさげ CSS Nite に登壇!とのことで昨年末よりずっと楽しみにしていました。さすがに同意の方が沢山いたようで、Appleストア内は満員でした。
イノベーターになる、には
戦略デザイン、「デザイン(クリエイティブ)でイノベーションを起こす方法」が今回の核心でした。
イノベーション=変革。何かを変えることのできるひと=イノベーターです。「デザインでイノベーションを起こす」というのはつまり、デザインによって何かを変えることになります。
さてでは、「何かが起こる」あるいは「何も起こらない」という差が起こるのはどこに違いがあるのでしょうか。コミュニケーションデザインのフローは大まかに
- 顧客の要望を聞く
- 聞いた要望を噛み砕いてプレゼンする
- 合意して作る
- 仕上げる
となっています。
大きく分けると四手しかない中でよく起こる、最後の「仕上げ」の段階でのどんでん返し。これについては昨年末に行った「Webデザイン受発注のコミュニケーション実務ワークショップ」でも問題の中心になっていましたね。
この四手目での転覆を阻止するには、三手目で別の手を、三手目での転覆を阻止するには......。
突き詰めて行くとこういったフロー問題の回避の為には「デザインセンス」を磨いて行けばいいという根本結論に至ってしまうわけです。ではデザインセンスを磨くには......
- (デザインについての)ルールを知る
- 戦い方を学ぶ(戦術)
- 戦略(計画的/創発的)を立てる
という問題解決方法が挙げられていきます。それぞれ末尾に「だけではなく(次へ)」という言葉が付いての順になりますが、最後の「戦略」こそがイノベーターになれるのかなれないのかの最重要ポイント、分かれ目となるのです。
戦略の数々の詳細は本書をご確認いただくとして、今回ウジさんの言われる戦略のうちで私が一番打たれたものに「ポジションの取り方」というものがありました。
ポジションを設定、やみくもにやってもいけない
こういうデザインにする/したい、というものが有るとすると、大体人はそこに向かって行こうとするものです。
方向性というのが決まると、おのずと制作物全体のトーン&マナーまで決まっていくものですが、ここで「ストップ」!
その際の弊害として、ウジトモコさん曰く一生懸命に何かに向かっていこうとする(ポジション設定をする)とどんどん狭くなっていってしまうと言います。たしかにそうこうするうちに視野も狭くなっていくことでしょう。
そうならないウジさん流のポジショニング方法が「間違ってはいけない方向を取って行く」という方法。絶対に違うものから離れていく、というポジションの取り方をすることで、幅のあるポジション設定ができていくと言います。このポジショニングを元にして進むべき方向を決めていき、テーマを決める/デザインやブランディングを進めることで求められる成果物に限りなく近くなります。
間違った方向を「取る」ということ
ポジショニングに関連するものだと思いますが、方向が決まった後には他社との「差別化」を次におこないます。「差別化」を見極める際にも「間違いを取る」ということが有効です。「これではない」を選択していくことで、結果的に差別化の仕分けが完成するのです。差別=傾向の違いを明確にする(程度の違いは差別ではなく「方向性の違い」)ことで、他のものと「間違われないようにする」ことが目的です。
「ターゲットをしぼる」という言い方もしますが、ただ「しぼる」ではなく「違うものを取る」ことが結果的に色々なものの定義付けがなされていくわけです。
これらの方法でポジショニングを確立させていくと、同時に「説得力のある理由づけ」ができるようになるように思います。間違ったものをあえて進言できるようになるので、無理な要望がクライアント側から出てきた際に「それは〜〜という理由があるので違いますよね」という説明が付きます。
こうして確度の高いデザインを生むことができるようになります。
おまけ:ショッピングバッグテスト
最後のほうで面白いテスト方法をご紹介くださいました。ロゴのデザインを行った時に必ずやってみる「ショッピングバッグテスト」です。
ロゴのデザインばかりやっているとそれこそどんどん視野が狭くなっていったり、ややもすると「Webサイトのデザインに合ったロゴ」(単独ではなんだかよくわからないデザイン)ができあがる場合すらあります。それを避けるために、ショッピングバッグや封筒にプリントされた時にどうなるのか、という簡単なシミュレーションを行うそうです。
若い女性たちがショッピングバッグをオシャレに持っているのを見て思いついた方法だそうですが、自分でもしそのプリントされたバッグを持ち歩きたくないと思ったら却下するのだそうです。女性らしいさすがの方法です。私も次に機会があったらやってみようと思います。
CSS Niteのサイトにてセミナー資料や音声が公開されていますので、どうぞ下記をご参照ください。
CSS Nite in Ginza, Vol.61(2012年1月19日開催)